神経筋障害認定理学療法士~進行性の難病に対する無力感を克服したい~
理学療法士|Y.D.
2018年 / 中途入社
Interview
physical therapist
理学療法士|Y.D.
2018年 / 中途入社
Interview
physical therapist
01
専門職の無力感をなんとかしたいという想いから、神経筋障害認定理学療法士の取得を目指した
病院勤務していた頃から脳卒中の方に対応する機会が多く、私自身専門性を高めてきた自負がありました。
ところが在宅の現場に出てみると、あらゆる疾患に対してジェネラリストとしての対応を求められます。
「脳卒中の方にはこれだけのことができているのに、神経難病の方にはできていない」と愕然として、できることを探したいと思ってきました。
リハビリの効果としては大きく回復、維持、抑止(右肩下がりを少しでもなだらかにする)の3つがあり、脳卒中後遺症などに比べるとパーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経難病は進行性のため維持や抑止になってしまうことが多く、「理学療法士としてこれができた!」と思える機会が少ないんです。
結果、無力感にさいなまれる専門職や支援者も多く、そのような状況をなんとかしたいと思って認定研修や試験を受けることを決意しました。
パーキンソン病は難病の中でも症例が多い疾患ですが、病院でみていたのは主に運動症状でした。
在宅では、非運動症状(便秘、睡眠障害や記憶障害等)についての対応を求められることも多く、研修を受けるまではインターネット等で調べた対応をお伝えするのが精一杯。ネットには膨大な情報があり何が神経難病のスタンダードかわかりませんでした。
研修を受けて神経難病の基準となる進行過程がみえたので、必要な情報を必要なタイミングでご利用者やご家族にお伝えするなど、できることが増えたように感じています。
ADL(日常生活動作)が右肩下がりになってしまう中で、どのようにQOL(生活の質)を維持向上させていくのかが、神経難病の課題です。
病院だと過ごし方に制約がありますので、豊かなQOLを実現し得るのは在宅だと思っています。
『最期を過ごす場所』があったとしても、その場所での生活を支えるのは家族も含めた支援者です。
だからこそ支援者の知識経験はとても重要で、今回認定資格取得にあたり様々な研修を受けたことが、ご利用者のより良い在宅生活に繋がるのだと感じています。
02
神経筋障害認定理学療法士養成講座後の現場を経て、難病支援において大切なことが見えた
今回、国立精神・神経医療研究センターで養成を受けました。
理学療法士の研修だけでなく、神経内科医や看護師、車椅子エンジニア、作業療法士などの多職種が講師をしてくれたことで、「難病についての理解」「リスク管理」「予後予測を踏まえた支援」を様々な視点から学びました。
ALSは進行性の難病であるが故に「このタイミングでここを見る」など、予後が分かっていないとご本人の不安を軽減できない部分があります。
これらの不安が強すぎると、それが痛みなどの症状に繋がりかねません。
ただ、人によっては、支援者が予測し過ぎて先に先に対応することが裏目に出ることもあります。
ご利用者のタイプによって、同じタイミングで症状に向き合っていきたい伴走型なのか、先だって対応対策してほしいリード型なのか、適切に判断して対応していけるのが理想ですね。
ACP(人生の終末に向けてどう過ごしたいかを話す、人生会議)というと、医師や看護師がやるものだとイメージされている方も多いような気がします。
しかし支援者が療法士しかいないなら療法士がせざるを得ませんし、適切に実施できるように普段から同拠点にいる看護師の関わり方から学ばせていただいています。
私自身心がけているのは、なにかしらの節目となるタイミングで、今後をどう過ごしたいのかさらっと訊くこと。
前提として人の想いに土足で踏み込むことにならないように、その方に必要なACPの内容や、訊ねるタイミングを逃さないよう普段から整理しておく必要があります。
もちろん、普段から良好な関係性を作っていることも不可欠です。
同じ内容の話であっても、Aさんが話すのとBさんが話すのとでは、ご利用者の受け取り方がぜんぜん違うこともありますから。
03
地域で難病支援するために重要な多職種連携
前述のQOL(Quality of Life)の維持向上については別の側面があります。
Lifeには元々『生命、生活、人生』の意味があり、QOLの『生命の質、人生の質』といった意訳を考えると、自身の職種だけでは支援が完結しないことに気付きます。
そういった流れで地域の他事業所と連携が必要になることもありますが、顔の見えない他事業所との連携は容易なことではありません。
私自身も散々失敗してきました(笑)
しかしまずは他職種の業務内容であったり、個人の立場、働き方等について知っていれば、連絡を取りやすいタイミングが読めたり、有効な意見交換に繋がるかと思います。
他職種理解にあたって、在宅領域に関わる理学療法士には、『地域ケア会議推進リーダー』や『介護予防推進リーダー』の取得がおすすめです。
両方を取得できたら、『フレイル対策推進マネジャー』取得に進むことができます。
理学療法士にとどまらず他職種の領域についても見識を広げられますし、終末期のQOLに欠かせない『食支援』や『低栄養』『誤嚥性肺炎』などの知見も学べます。
自分で解決できないことでも、どこに相談すればどう解決できるのか理解していれば、強みになりますよ。
04
神経筋障害認定理学療法士を取得して、これからしたいこと
利用者の中には「どうしたらいいんだろう」と今後のことを必要以上に考えてしまい、孤独感や無価値観といったスピリチュアルペインに繋がる方も少なくありません。
必要以上に難しいことやしんどいことを考えるのは支援者でいいと思うんです。
疾患の理解や予後予測ができれば「そこは考えなくて大丈夫」と対応できるので、できるだけシンプルに利用者を方向付けられるような支援者になるのが個人的な目標です。
一方地域ではALSなどの稀少疾患を経験したことがなく、困られている支援者が散見されます。
私自身、『神経筋障害認定理学療法士』の合格発表を受けてから、まだ半年足らずですが、研修や座談会を通じて知識を広め、支援者たちへのサポートもしていきたいと思っています。
認定理学療法士を取得するためには、認定教育機関で養成を受ける必要があるのですが、脳卒中認定理学療法士の認定教育機関が全国に47つあるのに対し、神経筋障害認定理学療法士の認定教育機関はわずか3つしかありません。
それだけ稀少性が高く未開拓の分野ということですが、それでも私たちは疾患についてもその対応についても、押さえるべきところを確実に押さえておく必要があります。
微力ながら、研修会や座談会を通じて知識を伝達し、自分が担当せずとも支援者を通じて神経難病をお持ちの方をサポートしていきたいと思っており、それが地域での目標です。
これからも最新の知見を取り入れて、ご利用者にも地域にも還元できる療法士を目指し、精進いたします。
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